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取材③(ヤングケアラー協会)

一般社団法人 ヤングケアラー協会」は、ヤングケアラー・若者ケアラーを支援する活動を行なっている団体です。同協会のご担当の方にウェブミーティングにてインタビューを行いました。ヤングケアラー協会と、ご対応いただいたご担当の方に御礼申し上げます

一般社団法人 ヤングケアラー協会
(画像提供:ヤングケアラー協会)

ヤングケアラー協会について

ヤングケアラー協会の前身は、現在協会の代表を務めている宮崎さんの立ち上げた「ヤンクル株式会社」です。宮崎さんは、自身もヤングケアラーであった経験があり、学校に通うのが難しいことも多々あるケアラーが悩みがちな就職の支援を行おうと、同社を設立しました。活動を行う中で、法人格を一般社団法人とした方が良いと考え、現在のヤングケアラー協会が設立されました。一般社団法人では人が集めやすく、支援をする上で、個人単位よりも組織・集団として行う方ができることが多いことから、一般社団法人となりました。協会は、元ヤングケアラーや現若者ケアラーで構成されています。

現在、ヤングケアラー協会では、「ヤンクル株式会社」で行われていた就職支援だけでなく、ケアラーのコミュニティを築く「Yancle Community」、研修・講演活動啓発活動など、多様な活動を行っています。悩みを抱えるケアラーの持つ課題は、人それぞれで、各々の課題に応じるために、支援の多様性が生まれました。協会では、介護自体は否定しておらず、介護をする意思があるのであれば、することは問題はないと考えています。「ケアラーであることで学ぶことや働くこと、自分らしく生きることを諦める人が出ないようにすること」を長期的な目標として活動しています。

Yancle Community

「Yancle Community」はヤングケアラー・若者ケアラーが集うオンラインコミュニティーです。1人になりがちなケアラーが、悩みを吐き出せる場所を作りたいという想いから始まりました。取材の担当者は、「ケアラーは本当にストレスが多い。悩みを打ち明けたいと思うこともある。」と話します。この活動では、ケアラーの抱える課題の根本的な解決には繋がりませんが、自身が抱えている課題を言語化し、解決や次に進むことのきっかけを作ることを目的に行われています。また、課題を言語化することは、介護期間が終わった時に、これまでの人生をアウトプットして誰かに伝える際にも重要なことです。

就職支援

先述のように、協会の前身である「ヤンクル株式会社」でも、就職支援は行われており、協会でも事業を継承しています。仕事と介護を両立しなくてはならなかったり、介護期間は終わっていても、キャリアにブランクが生まれていたりするなど、ケアラーの就職に関する悩みは多くあります。そうした人たちに対して、協会では就職にまつわる相談を受け付けており、就職先の企業探しを手伝うなどの支援を行っています。

しかし、取材担当者は現状は厳しいと言います。介護をしながら働くことのできる体制が整っているような就職で人気の企業に採用される人もいる一方で、取材担当者の印象では相談者の8割程度は、うまく就職をすることができていないそうです。こうした人たちの間では、企業のケアラーに対する理解が足りないことで、就職できないというケースが多くなっています。こうした中で、協会ではケアラーのスキルアップを支援したり、企業のケアラーに対する意識の改善に取り組んだりしています。取材担当者は「ケアラーへの配慮がない企業は、社会的な評価が下がるような、社会的な意識の変化が必要。」と話します。協会では、ケアラーがケアラーでない人と同じ土俵で就職活動ができ、働くことのできるような環境を作ることを目指しています。

研修・講演・啓発活動

協会では、地方自治体や大企業主催のセミナーなどで、ヤングケアラーの当事者団体・支援団体として講演を行ったり、メディア出演などもしています。取材担当者は「ヤングケアラーの問題について、社会の一部の人のみが知っているのでは不十分。社会全体の認知度を上げる必要がある。」と話します。近年、ヤングケアラーの問題に対する認知度は上がってきているものの、講演などに来るのは問題に関心のある人で、興味や関心のない人には、啓発活動をしても認知にはつながりにくいのが現状です。協会では、学校などで広く啓発を行っていく必要があると考えています。

相談窓口

現在、政府や自治体などにおいても、子ども全般やヤングケアラーに向けた相談窓口が整備されています。しかし、取材担当者は「ケアラーの立場から見れば、電話先の見知らぬ人に相談することはハードルが高い。」と話します。協会では、窓口の担当者が名前を出した上で、自らがケアラーだった体験をオープンにすることで、ケアラーが安心して相談できるようになっています。相談の形式としては、実際に話すことをできるだけ増やすように心がけています。また、悩みの相談だけでなく、世間話などもすることで「楽しめる」場所を提供しています。協会では、埼玉県のヤングケアラー相談窓口の運営も担っています。

他にも、現在は新規受付を休止していますが、「自分史制作」事業も行っています。ヤングケアラーは、介護に追われている日々の中では、自身の人生について長期的な視点で眺め、深く考える機会を持つのが難しいケースが多くあります。そのため、介護期間が終わると、自分が何をしたいのかといったことが分からなかったり、介護以外に何をしてきたのかといったことを見失うこともあります。この事業では、こうしたヤングケアラーがこれまで歩んできた人生の道のりを、辛い部分や苦しかった部分以外にも、楽しかったことや前向きな出来事も含めて振り返り、自身の人生と向き合う支援をしています。

近年の変化

近年、世間でのヤングケアラーの問題への認知度は高まってきています。取材担当者は「センセーショナルな事件があると、世間の注目を集めやすい。ヤングケアラーが被介護者を殺害した事件がポイントとなって、近年認知度が高まってきている。」と語ります。また、ヤングケアラー協会などの支援団体の啓発活動もあり、当事者や支援団体がメディアの取材を受けることも増え、それにつれてヤングケアラーの置かれている現実が世の中に出て行ったことも注目が高まった要因だとも話します。取材担当者は、「注目が集まっている今はある種のブームのような状態で、世間の関心のある今のうちに行動を起こしていく必要を感じている。」と話します。

また、取材担当者は、近年ヤングケアラーの数が増加してきていることについては、「認知症」などの症状に病名が付くようになったことで、これまでは放置されてきた症状でも、介護対象となるようになったことや、地域でのつながりが薄くなってきたことで、助け合いも少なくなり、家族内での介護が増加したことが要因ではと指摘しています。また、高齢化や性疾患患者の増加によって被介護者が増えたり、核家族化によって子どもが介護をしなくてはならないケースが増えたことも、ヤングケアラーの増加には影響しているのではとしています。

先述の通り、ヤングケアラーに対する世間の認知度は高まってきており、それに伴って支援をするために確保できる資金も増えてきています。近年では、民間支援だけでなく、政府がヤングケアラーの支援政策を打ち出すようになってきました。政府は、各自治体に対してヤングケアラー支援事業を行うように促していて、事業の費用の一部や全額を政府が負担する制度もあります。自治体が、実際の事業の実施をヤングケアラー協会などの支援団体に委託することで、ヤングケアラー協会が確保できる資金も増えてきました。また、問題に対する注目の高まりから、寄付金が増えてきているそうです。取材担当者は、「調達できる資金が増え、それによってできる活動の幅も広がった。」と話しています。

ケアラー当事者が支援

協会では、現ケアラーや元ケアラーが支援活動にあたっています。取材担当者も例外ではありません。担当者は、14歳の時に両親が離婚し、弟が幼かったため、アルバイトで家計を支えました。当時は、「手伝いの延長」といった認識で、現在では「ヤングケアラー」の定義には当てはまることは理解していますが、当時の認識はあまり変わっていないそうです。高校にはあまり通えなかったため、卒業後は2年間フリーターとなり、その後大学に進学し、大学1年生の時に、祖母がアルツハイマー型認知症と診断され、その後約10年間、大学・企業に所属しながら祖母の介護に関わりました。この約10年間については、自身のことを「ケアラーだった」と認識しています。取材担当者は、この介護経験について、「抱える悩みは消えなかった。周囲からの理解も受けられず、生じた課題や問題は自力で解決するか、時間か運が解決してくれたことが多かった。何か状況が違えば、自分が死んだり、祖母を殺していたかもしれない。」と語ります。このような経験から、現在苦しんでいるヤングケアラーに対して、当時の自分が受けられなかった支援を行おうと、2020年からヤングケアラーを支援する活動を個人で開始し、その後協会での活動に携わるようになりました。


最後に、中高生へのメッセージを聞きました。取材担当者は「中高生は、同級生など、ヤングケアラーが近くにいるため、ケアラーが抱える問題に気づいてあげることができる。ヤングケアラー自身は、自分の悩みや問題を認識できていないことも多い。何か違和感を感じた際には、声をかけてあげたり、聞いたり、自分ができることをして、大人につなぐことが重要。ケアラーにとっては、窓口などは相談しづらいことがあるため、本人の代わりに窓口に相談するなどしても良い。」と話します。

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