学校(体罰)
現状
体罰とは
「体罰」は、子どもを懲らしめるために、肉体的な苦痛を伴う罰を与えることを指します。文部科学省が示す指針によれば、殴ったり蹴ったりすることはもちろんのこと、ボールペンを投げたり、トイレに行かせなかったり、長時間の正座を強要したりすることも、子どもに「肉体的苦痛」を与える行為として体罰に該当します。児童生徒が、教師や他の児童生徒に対して暴力行為に及んだ場合に、教師が自己防衛や児童生徒の制止のために行った力の行使は体罰には該当しません。体罰行為は、子どもの尊厳や人格、暴力から保護される権利を侵害し、認められていません。
学校現場における体罰は、日本では1879年(明治12年)の「教育令」から約140年にわたって禁止されており、現在では1947年に制定された「学校教育法」11条によって禁止されています。一方、同法は教師の懲戒権についても定めており、これは、教師に、肉体的苦痛を伴わない懲戒を児童・生徒に課すことを認めるものです。認められる懲戒の例としては、学習課題や清掃を課したり、放課後の「居残り」や、授業中に起立させたりすることなどがあります。ただ、こうした懲戒をする「厳しい指導」については、児童生徒が「先生に怒られないかどうか」を指針に行動するようになってしまい、何が正しい行動かを自ら判断する能力が養われず、長期的には子どもの成長につながらないとする指摘もあります。
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
体罰が子どもに与える影響
体罰を子どもに加えることは、子どもの心身に様々な悪影響を及ぼします。体罰は、身体的な直接の被害以外にも、心の深い傷につながりかねず、精神的な不調や不登校を招くこともあります。また、児童生徒による「力による問題の解決」を促進しかねず、いじめや児童生徒間の暴力トラブルの増加を誘発する恐れもあります。体罰は、児童の人格形成にも悪影響を与えるともされています。こうした悪影響は、体罰を受けた児童生徒だけでなく、それを見聞きした生徒にも及びます。
後を絶たない体罰
近年では、体罰の件数は減少傾向にありますが、それでもなお、後を絶たない状況です。学校での体罰は、正課活動の中だけでなく、部活動などにおいても発生しており、スポーツの現場においては体罰を容認する雰囲気が残っているとの指摘もあります。体罰事件のニュースを目にすることも多く、さらなる対策が必要とされているといえます。
改善策
2013年に発生した、大阪市立桜宮高校(現・大阪府立桜宮高校)バスケットボール部において体罰を受けた生徒が自殺した事件をきっかけに、社会において「体罰を容認しない」との認識が広まるようになりました。文部科学省でも、この事件を受けて全国の教育委員会に出した通知において、具体的な事例を示して「指導」と「体罰」の曖昧な線引きを明確化するなどし、対策を強化しました。また、体罰について全国規模の詳細な調査を実施しました。具体的には、これまで調査の対象外であった私立、国立の学校も対象とし、また、児童生徒や保護者にも初めて調査を実施しました。これの調査によって、これまで把握されてこなかった体罰についても集計され、体罰によって処分された教職員の数は前年度の約7倍に達しました。
事件後には各県においても体罰防止のためのガイドラインが作成されるなどし、教育現場の意識改革に向けた対策が取られました。その後も、2018年には文部科学省によって部活動における総合的なガイドラインが制定され、その中で体罰についても根絶の徹底が求められました。また、教員や部活動指導員に対して、アンガーマネージメント研修を行い、感情・情緒的に行われやすい体罰の防止を防ぐ取り組みも行われています。