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現状と改善策

学校(ブラック校則)

現状

近年、社会常識とは著しくかけ離れて、生徒の外見や行動を合理的理由なく縛る「ブラック校則」の問題に対して、社会的な関心が高まってきています。こうした動きを受けて、実際に校則の見直しを行っている学校もありますが、いまだに「ブラック校則」のある学校も多くあるのが現状です。本校では、こうした子どもの権利を侵害する「ブラック校則」の問題について解説します。

ブラック校則とは

「ブラック校則」は、生徒の外見や行動を合理的理由なく縛るといった、社会常識とは乖離した校則のことを指します。具体的には、以下のような校則がブラック校則として指摘されています。

頭髪指導

ツーブロックやパーマなどの特定の髪型を禁止としたり、髪の毛が黒色でない場合には黒く染めることとしたり、前髪が眉にかかってはいけないとしたりするなどの頭髪に関する合理性に欠けた校則です。荻上チキらによる「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」によって2018年に行われた調査では、生まれつき髪の色が茶色である人の割合は約8%です。ブラック校則のもとでは、こうした地毛が黒色でない生徒に対して、髪を黒く染めたり、地毛証明書の提出が求められたりしています。いわゆる「くせ毛」の生徒に対しても、パーマを禁止する校則のもとストレートパーマをかけるよう指示をされたりするケースもあります。また、このような「禁止事項」の規定ではなく、頭髪に関して学校が髪型を指定するような規則も存在します。髪の毛以外にも、「眉を剃ることを禁止する」という校則がある学校もあり、この校則に違反すると、別室で3日間自習するよう指示されて、幼児用教材を与えられたり、ひたすら反省文を書かされたり、壁を向いて座らされ5人の教員に取り囲まれるといった不適切な指導が行われていたとする報道もあります。

頭髪に関するブラック校則

ただ、1985年に中学での男子生徒の髪形を「丸刈、長髪禁止」とする校則の無効を訴えた裁判の熊本地裁判決では、この校則は校則を定めた校長の裁量を逸脱しておらず合法との判断がなされました。

服装規定

髪ゴムや髪を止めるピンの色、ストッキングや靴下の色や長さの指定、タイツやマフラーの着用の禁止といった、生徒の服装について細かく厳格に定める規定が当てはまります。明文化された「校則」としてだけでなく、教師の裁量の範囲でチェックされるケースもあります。過度に細かい服装の規定は、合理性が欠如しているのに加え、防寒や暑さ対策を禁止する校則は生徒の健康を脅かしています。また、「タイツの着用禁止」などの規定は、スラックスを着用している男子生徒は、重ね着をして着用してもそのことが発覚することはないのに対し、女子生徒はスカートを着用しているためタイツを着用できずに寒さを耐えるしかない、といった男女差別にもつながりかねません。

服装に関するブラック校則

また、下着の色の指定、スカート丈や厳格な持ち物の規定と不適切な運用といった、セクシュアルハラスメントにつながる校則や指導も行われています。下着の色の指定自体、合理性にかけるとの指摘もありますが、異性教諭からのチェックが行われているケースもあり、セクシュアルハラスメントの一種といえます。また、スカート丈を確認する際に公衆の面前で異性教諭がスカートをめくったり、異性教諭に所持品検査をされ生理用品まで確認されたりすることも不適切な運用といえます。

その他のブラック校則

上記以外にも、「日焼け止めの校内での使用不可」や、「休み時間の私語禁止」、比較的長い距離での通学にもかかわらず「通学は徒歩のみ」、「荷物を学校に置くことの禁止」とするなどの規定は、多くの場合合理性に欠き生徒の自由を侵害する「ブラック校則」です。徒歩での通学を指定したり、重い荷物を毎日持ち帰らせたりすることは、生徒の健康被害にもつながりかねません。

こうした校則が存在する背景として、1970年代から80年代に社会問題となった「校内暴力」があります。この問題に対処するため、学校は服装などを厳しく規定し、現在では「ブラック校則」と呼ばれるような決まりができていきました。また、他にも、保護者や周辺地域から学校に対して、様々な要請クレームが入るようになったこともブラック校則ができたり、存続したりしてきた要因との指摘や、暴力のみならずより広い範囲のトラブルを防止しようと生徒の私生活を縛るような校則ができるようになってきたとの指摘もあります。

ブラック校則の背景

こうしたブラック校則が、近年注目されるようになってきたきっかけの1つが、2017年の大阪府立高校の頭髪の黒染め指導を巡る訴訟です。大阪府羽曳野市の府立懐風館高校が茶色っぽい髪を黒く染めることを教員に強要され、不登校になったとして、府に対して約220万円の損害賠償を求めました。2021年の大阪地裁判決では、髪の染色を求める校則について「学校の裁量の範囲内」とした一方で、その後の学校が名簿に生徒の名前を載せなかったり、教室に席を置かなかったりした措置については「認められない」とし、府に33万円の支払いを命じました。この訴訟は、一部の欧米メディアで驚きを持って報じられ、国内においては「ブラック校則」の認知とそれに関する議論が広がるきっかけとなりました。

ブラック校則の子どもたちへの悪影響

こうしたブラック校則は、生徒の心身に悪影響を与える場合があります。日焼け止めやマフラーやタイツといった防寒着などの使用・着用を禁止する校則は、その決まり自体が生徒の健康を脅かします。1990年には、厳格な遅刻の取り締まりによる死亡事故も起きており、事故当時には管理主義的な校則の運用が批判されました。事故では、生徒の登校時に教師が「何秒前」と拡声器を用いてカウントダウンをしながら、鉄製の門扉をスライドさせて閉じようとしており、そこに女子生徒が駆け込んだため頭部を挟まれて死亡しました。

また、細かい頭髪や服装に関する規定とその厳格な運用は、生徒にとって心理的な負荷となります。恣意的な校則の運用によって服装が「派手」と見なされたり、それによって謹慎処分になったり、別室学習や反省文の提出を求められたりすることは、校則自体に合理性を見出せない生徒たちにとっては、精神的な苦痛が伴うと考えられます。「内申に響いてしまう」「退学処分となってしまうのではないか」といった恐怖の中、校則に対して不満を抱いたまま、疑問の声を挙げられないといった生徒もいます。また、下着の色を指定する校則による異性教諭が行う下着のチェックなどの、セクシュアルハラスメントに該当すると考えられるような校則の運用は、生徒の心に傷を残します

ブラック校則は子どもにとって悪影響

他にも、学校指定品を使用・着用しないと指導の対象となり、類似品と比較して高価な指定品を購入しなくてはならなかったり、厳格な頭髪検査のために頻繁に理容室に行かなくてはならなかったりするなどのケースがブラック校則のために生まれており、こうした事例から、校則指導が不合理な経済的負担を家庭に強いているとの指摘もあります。

改善策

近年の、ブラック校則に対する議論の広がりや社会的な関心を受け、学校や教育委員会による校則の見直しが全国的に行われています。2022年には、全ての東京都立高校において「髪の毛を一律で黒く染める」「ツーブロックの禁止」「校内別室ではなく自宅での謹慎」「下着の色の指定」「高校生らしいといった曖昧な表現での指導」の5項目の校則が廃止されました。一方で、「地毛証明書の提出」は一部の高校で残っています。また、同年、文部科学省は児童や生徒の生活面での注意事項や問題行動時の対処などの教員向けガイドラインにあたる「生徒指導提要」を改訂しました。2010年の初版からの改訂で、そこでは「制服の着用、パーマ・脱色、化粧」などに関する校則があると、事例が明示されていましたが削除されました。また「本当に必要なものか絶えず見直し、不要に行動が制限される児童生徒がいないか検証することも重要」とし、校則のWebサイトでの公開も推奨しました。

また、校則を子どもの参加のもとで、問い直して行くことも必要だと考えます。子どもの権利条約では、子どもを「保護の対象」としてだけでなく、「権利の主体」として捉えており、12条では子どもの意見表明権を認めています。作業への子どもたちの参画のもとで、今ある校則が「何のために」「誰のために」あり、「本当に必要であるのか」「少数派に対する合理的配慮がされているか」といった観点から見直す必要があるのではないでしょうか。

このためには、教員や保護者といった大人たちが、子どもたちを「権利の主体」であると認識し、また、信頼することが必要です。「子どもたちには分からないことだ。子どもたちの意見は聞くに値しない。」といった姿勢では、校則の見直しはうまくいかないでしょう。「ルールを作る側の大人」と「ルールを守る側の子ども」といった明確な区別をせず、「守る側」の子どもたち自身もルール作りに参加できる仕組みが重要だと考えます。実際に、熊本市では、ルールを自ら作るという体験を通じて、民主主義の基本を学ぶことを目指して、子どもも参加しての校則の見直しが行われています。また、NPO法人のカタリバは、「みんなのルールメイキングプロジェクト」を通じて生徒や教員といった学校の当事者間で議論をして校則を見直していく取り組みの支援を行っています。

子どもたち自身もルール作りに参加できる仕組みが重要

ただ、こうした校則見直しの取り組みが広がる中で、「下着の色の指定の幅を広げる」など、制限を緩めるだけで廃止はしない校則の変更も行われています。このことについては、「そもそもこの校則は必要なのか」といった視点に欠けている場合もあり、「教員が校則見直しの趣旨を理解する必要がある」との指摘もあります。見直しを行う際には、議論に参加する全ての当事者が、話し合いの目的を正しく認識する必要があるといえます

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